2005年4月24日、2人の選手が引退を迎えた。 大王QUALLTとユタカである。 今回はユタカ引退試合をピックアップして観戦記とする。 ユタカの引退が発表されたのは2月26日のことだった。 岸和田愚連隊でも地位を築き始めたし、まだまだ伸びる選手だと思っていただけに驚きだった。 また、時を同じくして引退を表明したQUALLTは、引退試合の相手を早々から「後輩」スーパー・ドルフィンと指名していた。 QUALLTとドルフィンはみちのくプロレス時代からの兄弟弟子であり、多くの苦渋を共にしてきたであろう関係なだけに、QUALLTの引退試合の相手がドルフィンなのは当然なのかもしれない。 一方のユタカに関しては、引退前日まで引退試合についての希望を公にはしなかった。 過去の成り行きから考えると、しのぎを削ってきたタイガースマスクとの試合が濃厚だと思っていた。 しかし、ユタカの口から出てきたのは意外な選手の名前だった。 ツバサとのタッグで引退試合を行いたいと希望したのだ。 ただ、聞いて納得できるタッグでもあった。 そして対戦相手は第8代大阪プロレスタッグ王者のビリーケン・キッド&タイガースマスク。 この組み合わせを見て、僕には感じるものがあった。 この試合はユタカの「忘れ物」の試合かもしれないと。 ツバサ&ユタカはタッグフェスティバル2004で優勝した。 通例、タッグフェスティバルの優勝は、次期タッグタイトル挑戦権と繋がっている。 だから、ツバサ&ユタカが当時のタッグ王者だった虎ビリーに挑戦するものだと思っていた。 ツバサ&ユタカは結成わずかでコンビネーションこそ改善の余地はあったが、お互いの足りない所を補完しあえる良いタッグで、ベルトを奪う実力は十分に兼ね備えていたと思う。 しかし皮肉にもタッグフェスティバル直前のユタカとの試合で負ったツバサのヒザの負傷が悪化、ツバサは長期欠場。 そのままタッグタイトルへの挑戦は流れてしまった。 しかもツバサの長期欠場中には、ユタカが岸和田愚連隊入りし、2人のタッグは完全に消滅した。 岸和田愚連隊入りしたユタカはブラックバファローとのタッグでタイトル初挑戦を果たしたが、虎ビリーの壁を越えることはできず、ベルトの戴冠は果たせずじまいだった。 ツバサは2005年2月13日の大阪府立体育会館大会で復活。 復帰後、岸和田愚連隊との対戦は全くなかったが、4月23日にQUALLT&ユタカと対戦。 その試合後に、ユタカが前述のようにツバサとのタッグを希望したのである。 4月24日の時点で虎ビリーはもうタッグベルトを持っていない。 しかし、ビリー、タイガースマスク、ツバサ、ユタカの各選手は、ユタカの引退試合であることはもちろんだが、「忘れ物のタイトルマッチ」として白熱した試合を見せてくれるのではという期待があった。 休憩明けの第3試合。 まずはスクリーンでユタカの大阪プロレスデビューからの映像が流れる。 映像が終わると、ビリーのテーマ曲で虎ビリーが入場。 両選手ともユタカの過去のガウンを着ての入場だ。 続いてはユタカのテーマ曲(UGM時代)でツバサ&ユタカが入場。 なんとツバサは「アイドル」のガウンである。 そしてユタカはタッグフェスティバル優勝時のコスチューム(おそらく)で登場。 試合前のコールではユタカが最後、そして冠には「ファイナルジャスティス」。 コールとともに四方から紙テープが飛ぶ。 試合前はクリーンに全選手が握手で試合開始。 先発で出てきたのは、ビリーケン・キッドとユタカ。 まずはお互いを確かめあうように基本に忠実なレスリングをしてタッチ。 さすがに今日は「楽しいプロレス」は封印だ。 その時、これが引退試合という荘厳な空気を感じたかもしれない。 再び登場したユタカは、1つ1つの技を確認するかのように繰り出していく。 ロープにふるという基本動作から全てに心がこもっていたように思えた。 ただ、やはりタッグとしての経験・成熟度は虎ビリーが1枚も2枚も上手。 ツバサが要所要所でカットに入るが、ユタカがつかまる場面が多くなる。 会場の大声援に押されて反撃を見せるが、ワルキューレはビリーの巧みな切り返しで未遂に終わる。 徐々にダメージの蓄積により動きの落ちてきたユタカに対し、虎ビリーの攻撃は容赦がない。 特にタイガースマスクは一技をかけるたびに「頑張れユタカ!」と鼓舞する。 そんなタイガースマスクのマスク越しは涙を流しているようだった。 パートナーでもあるツバサもユタカの頬を叩く。 ビリーも重厚な技を出しながらもエールを送る。 皆がユタカを最高の試合で送り出してあげようとしていた。 こんな粋な計らいにユタカも応えないわけにはいかない。 ツバサがビリーを場外に固定してくれたおかげでできた、タイガースマスクとの一騎打ちの状況に、アストロシザーズ、ジャンピング・キックの連発であわや3カウントの場面を幾度となく作り出す。 ただ、タイガースマスクも引退していく人間に簡単に3カウントを許すわけにはいかない。 涙とともに繰り出した投げっ放しのジャーマン・スープレックス。 ツバサのカットこそ入ったが、デルフィンスペシャル2号。 ここでビリーがツバサを場外に固定すると、タイガースマスクに勝負を託す。 六甲おろし、バック投げも使い切った今はあの技しかない。 もう涙する理由を全ての観客が理解した状況でのタイガース・スープレックス。 完全な3カウントが入り、ユタカのプロレス人生に幕が閉じた。 勝負が決まったにもかかわらず、タイガースマスクはクラッチを解かなかった。 むしろ解けなかったというのが正しいのかもしれない。 おそらくクラッチした瞬間から、タイガースマスクの脳裏には色々な出来事がかけめぐっていたのだろう。 ユタカもそうだったかもしれない。 この2選手だけではなく、ツバサもビリーも、そして観客も。 試合が終わっても、リング上の4選手は大の字になったまましばらく動かなった。 周りに促されマイクを握ったユタカの顔は意外にも明るかった。 きっと完全燃焼できたのだろう。 シングルマッチがあまり得意でないからという理由で組んでもらったタッグマッチ。 出場全選手が最高のパフォーマンスを見せ、白熱の闘いに自分も加われたという喜びが表情に出ていた。 大阪プロレスでトップにまで登ることは果たせなかったが、「ユタカ」という選手は確実に大阪プロレスの歴史に名を残した。 ユタカ選手、本当にお疲れ様でした。 彼の勇姿を絶対に忘れない… |